「…こんな形で、連れてきてどうするの」
「すまない…」
軍服姿のロイにすがりながら、その胸をたたく。
「つい、この間…よ?」
「……」
「こうして…会って、話して…」
「……」
「また、来年…それまでに、貴方をセントラルに…」
ロイの胸に置いていた手が、どんどん涙で濡れていく。
溢れる涙を拭うこともせず、顔をあげれば、ロイの瞳は静かに揺れていた。
「…すまない、」
その一言に、これが現実なのだと…事実なのだと、思い知らされる。
「っ…ヒューズ…!!!」
つい、昨日抱きしめてくれた腕は…もう、ここにはない
毎年、誕生日を祝ってくれた、優しいあの人は…もう…
誰よりも大切な奥さんと子供を残し
そして、誰よりも上へと押し上げるべき人より階級をあげ…ひとり、先に逝ってしまった。
「…そばにいてやる」
あたしにかけられた呪いを知り、それでも共にいてくれると言ってくれた。
抱きしめてくれた温かな腕と、その懐の広さに…ずっと感じていた孤独が、初めて埋められた。
「…馬鹿な、手……使いっ、やが…って」
長い時間を生きていたあたしが、唯一使えた手段。
あなたの知らない時間は、この胸に…今でも残っている。
ただ、一度の…逢瀬
「お前さんの祝いの言葉は、俺の何よりの喜びだ」
結婚をしても、貴方は変わらない。
全く年を取らないあたしを、貴方の家族へ紹介してくれて…まるで家族のように接してくれた。
人として、愛してくれた
「馬鹿だな。お前さんが生まれた日があって、お前が今まで生きていたから…俺たちは出会えた、そうだろ?」
誕生日には、必ず家に来てくれた。
朝から押しかけたり、昼に食事に誘ってくれたり…日付が変わるギリギリに駆け込んだり。
毎年…祝ってくれた。
好きだった…
憧れ、だった
何百年生きていた中で、いちばん…
アイシテイ…タ
「ヒューズ…っ…ヒューズ!!!」
約束を破る人じゃないでしょ?
出来ないことは、口にしないはずじゃない…
なにより…愛する家族を残す貴方じゃないじゃないっ!!
「…っ」
今、あたしを抱きしめているのは、ヒューズ、じゃない…
でも、あたしと同じ気持ちを抱いて悲しんでいるのは…きっと彼しかいない。
抱きしめてくれている腕の力が…爪が食い込むほどの強さが、全てを語ってる。
「…ロイ」
「…」
ほら、ヒューズ…
今、声をかけなきゃだめじゃない…
お、ついにお前さんたちくっついたか
いや〜長かったな…
これで俺も一安心だ
脳裏で、安堵して微笑むあの人は…今日、高い空へ旅立ってしまった。
あたしを、あたしたちを…この地上に残して
――― 愛してる…
鋼FAにおいて、早々にお亡くなりになってしまったヒューズさんです。
今までの鋼夢とはヒロインが違います。
そのせいで、偉い切ない夢になったと思われます…まぁ、相手が相手ってのもありますが。
書くことはないけれども、軽く設定だけ紹介。
ヒロインは呪いを受けて、数百年を生きている女性。
呪いのせいで、死ぬことが出来ません。
周囲に怪しまれないよう、相手の自分に関する記憶を消す…という術だけ、使えます。
ただ、それも頻繁に使えるものではなく、一度使えば数年は使えないって感じのもの。
だからあまり外に出ず、人と関わることはありません。
それでも"死"を求めて、様々な書物を読み、知識を蓄え…長い時を生きていきます。
そんな中、出会ってしまったヒューズとロイ。
士官学校ぐらいの頃かなぁ…大体。
ヒューズがグレイシアを好きになって告白して結婚してって時も、友達としてそばにいます。
何百年生きていても、彼ほど、自分を"人"として大切に想ってくれた人はいなかった。
彼と共に生き、死ぬこともままならないと悟った時、ある手段に出ます。
それを己の胸に秘め、その想い出を糧に生きていこうと誓います。
とまぁ、そんなのがあって、いつものように誕生日を祝って貰った後に…あの事件ですよ。
アニメの方でエンヴィーは自ら命を絶ちましたが、ちょっと大佐みたいに怒りで我を忘れかけました(苦笑)
自分、どんだけ好きなんだろう…ヒューズさんっ!とか思いました。
参考までに。
額へのキス→ 友情・祝福
頬へのキス→ 好意
って感じになってます、今回は。
ちなみに、彼女の使った"ある手段"については、10万Hit以降、キリバンを取ると読めるようになっています(笑)